より》は真顔になり、見上げ皺《じわ》を沢山《たんと》寄せて、
「何を貴方、勿体もない。私《わし》もはい法然様《ほうねんさま》拝みますものでござります。吝嗇坊《しわんぼう》の柿の種が、小判小粒になればと云うて、御出家に土の団子を差上げまして済むものでござりますかよ。」
真正直《まっしょうじき》に言訳されて、小次郎法師はちと気の毒。
「何々、そう真に受けられては困ります。この涼しさに元気づいて、半分は冗戯《じょうだん》だが、旅をすれば色々の事がある。駿州《すんしゅう》の阿部川|餅《もち》は、そっくり正《しょう》のものに木で拵《こしら》えたのを、盆にのせて、看板に出してあると云います。今これを食べようとするのを見てその人が、」
と其方《そなた》を見た、和郎はきょとんと仰向《あおむ》いて、烏も居《お》らぬに何じゃやら、頻《しきり》に空を仰いでござる。
「唐突《だしぬけ》に笑うから、ははあ、この団子も看板を取違えたのかと思ったんだよ。」
「ええ、ええ、いいえ、お前様、」
とこざっぱりした前かけの膝《ひざ》を拍《たた》き、近寄って声を密《ひそ》め、
「これは、もし気ちがいでござりますよ。はい
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