か》しては、何か私《わし》、気が済まねえ。
 そこで、草原へ蹲《しゃが》み込んで、信《まこと》にはなさりますめえけんど、と嘉吉に蒼《あお》い珠《たま》授けさしった……」
 しばらく黙って、
「の、事を話したらばの。先生様の前だけんど、嘘を吐《つ》け、と天窓《あたま》からけなさっしゃりそうな少《わけ》え方が、
(おお、その珠と見えたのも、大方星ほどの手毬だろう。)と、あのまた碧《あお》い星を視《なが》めて云うだ。けちりんも疑わねえ。
(なら、まだ話します事がござります、)とついでに黒門の空邸《あきやしき》の話をするとの。
(川はその邸の、庭か背戸を通って流れはしないか。)
 と乗出しけよ。……(流れは見さっしゃる通りだ)……」

 今もおなじような風情である。――薄《うっす》りと廂《ひさし》を包む小家《こいえ》の、紫の煙《けぶり》の中も繞《めぐ》れば、低く裏山の根にかかった、一刷《ひとはけ》灰色の靄《もや》の間も通る。青田の高低《たかひく》、麓《ふもと》の凸凹《でいり》に従うて、柔《やわら》かにのんどりした、この一巻《ひとまき》の布は、朝霞には白地の手拭《てぬぐい》、夕焼には茜《あかね》
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