くこう透かして見っけ。
しゃぼん球《だま》ではねえよ。真円《まんまる》な手毬の、影も、草に映ったでね。」
「それがまたどうして消えた、馬鹿な!」
と勢込《いきおいこ》む、つき反らした杖《ステッキ》の尖《さき》が、ストンと蟹の穴へ狭《はさま》ったので、厭な顔をした訓導は、抜きざまに一足飛ぶ。
「まあ、聞かっせえ。
玉味噌の鑑定とは、ちくと物が違うでな、幾ら私《わし》が捻《ひね》くっても、どこのものだか当りは着かねえ。
(霞のような小川の波に、常夏《とこなつ》の影がさして、遠くに……(細道)が聞える処へ、手毬が浮いて……三年五年、旅から旅を歩行《ある》いたが、またこんな嬉しい里は見ない、)
と、ずぶ濡《ぬれ》の衣《きもの》を垂れる雫《しずく》さえ、身体《からだ》から玉がこぼれでもするほどに若え方は喜ばっしゃる。」
十八
「――(この上誰か、この手毬の持主に逢えるとなれば、爺さん、私は本望だ、野山に起臥《おきふし》して旅をするのもそのためだ。)
と、話さっしゃるでの。村を賞《ほ》められたが憎くねえだし、またそれまでに思わっしゃるものを、ただわかりましねえで放擲《ほ
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