「今でもその学生が持ってるかね。」
背後《うしろ》から、訓導がまた聞き挟む。
「忽然《こつねん》として消え失《う》せただ。夢に拾った金子《かね》のようだね。へ、へ、へ、」
とおかしな笑い方。
「ふん、」
と苦虫は苦ったなりで、てくてくと歩行《ある》き出す。
「嘘を吐《つ》け、またはじめた。大方、お前が目の前で、しゃぼん球《だま》のように、ぱっと消えてでもなくなったろう、不思議さな。」
「違えます、違えますとも!」
仁右衛門の後を打ちながら、
「その人が、
(爺様《じいさん》、この里では、今時分手毬をつくか。)
(何《あん》でね?)
(小児《こども》たちが、優しい声、懐《なつか》しい節で唄うている。
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ここはどこの細道じゃ、
秋谷邸の細道じゃ……)
[#ここで字下げ終わり]
一件ものをの、優しい声、懐しい声じゃ云うて、手毬を突くか、と問わっしゃるだ。
とんでもねえ、あれはお前様、芋※[#「くさかんむり/更」、169−14]《ずいき》の葉が、と言おうとしたが、待ちろ、芸もねえ、村方の内証を饒舌《しゃべ》って、恥|掻《か》くは知慧《ちえ》でねえと、
(何《あ
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