《まんなか》で追《おっ》かける、人の煽《あお》りで、水が動いて、手毬は一つくるりと廻った。岸の方へ寄るでねえかね。
(えら!気の疾え先生だ。さまで欲しけりゃ算段のうして、柳の枝を折《おっ》ぺっしょっても引寄せて取ってやるだ、見さっせえ、旅の空で、召ものがびしょ濡れだ。)と叱言《こごと》を言いながら、岸へ来たのを拾おう、と私《わし》、えいやっと蹲《しゃが》んだが。
こんな川でも、動揺《どよ》みにゃ浪を打つわ、濡れずば栄螺《さざえ》も取れねえ道理よ。私《わし》が手を伸《のば》すとの、また水に持って行《ゆ》かれて、手毬はやっぱり、川の中で、その人が取らしっけがな。……ここだあ仁右衛門、先生様も聞かっせえ。」
と夜具風呂敷の黄母衣越《きほろごし》に、茜色《あかねいろ》のその顱巻《はちまき》を捻向《ねじむ》けて、
「厭《いや》な事は、……手毬を拾うと、その下に、猫が一匹居たではねえかね。」
十七
訓導は苦笑いして、
「可《い》い加減な事を云う、狂気《きちがい》の嘉吉以来だ。お前は悪く変なものに知己《ちかづき》のように話をするが、水潜《みずくぐ》りをするなんて、猫化けの怪談
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