だね。
草鞋《わらじ》がけじゃで、近辺の人ではねえ。道さ迷ったら教えて進ぜべい、と私《わし》もう内へ帰って、婆様と、お客に売った渋茶の出殻《だしがら》で、茶漬え掻食《かっく》うばかりだもんで、のっそりその人の背中へ立って見ていると、しばらく経《た》ってよ。
むっくりと起返った、と思うとの。……(爺様《じいさん》、あれあれ、)」
その時、宰八川面へ乗出して、母衣《ほろ》を倒《さかさ》に水に映した。
「(手毬《てまり》が、手毬が流れる、流れてくる、拾ってくれ、礼をする。)
見ると、成程、泡も立てずに、夕焼が残ったような尾を曳《ひ》いて、その常夏を束にした、真丸《まんまる》いのが浮いて来るだ。
(銭金《ぜにかね》はさて措《お》かっせえ、だが、足を濡らすは、厭な事《こん》だ。)と云う間も無《ね》え。
突然《いきなり》ざぶりと、少《わけ》え人は衣服《きもの》の裾《すそ》を掴《つか》んだなりで、川の中へ飛込んだっけ。
押問答に、小半時かかればとって、直ぐに突ん流れるような疾《はえ》え水脚では、コレ、無えものを、そこは他国の衆で分らねえ。稲妻を掴《つかま》えそうな慌て方で、ざぶざぶ真中
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