ぞ》いて、天狗《てんぐ》わらいに冴《さ》えて来ました、面目もない不了簡《ふりょうけん》。
 嘉吉とかを聞くにつけても、よく気が違わずに済んだ事、とお話中に悚気《ぞっ》としたよ。
 黒門の別荘とやらの、話を聞くと引入れられて、気が沈んで、しんみりと真心から念仏の声が出ました。
 途中すがらもその若い人たちを的に仏名を唱えましょう。木賃の枕に目を瞑《ねむ》ったら、なお歴然《ありあり》、とその人たちの、姿も見えるような気がするから、いっそよく念仏が申されようと考える。
 聞かしておくれの、お婆さん、お前は善智識、と云うても可《よ》い、私は夜通しでも構わんが。
 あんまり身を入れて話をする――聞く――していたので、邪魔になっては、という遠慮か、四五人こっちを覗《のぞ》いては、素通《すどおり》をしたのがあります。
 近在の人と見える。風呂敷包を腰につけて、草履|穿《ば》きで裾をからげた、杖を突張《つッぱ》った、白髪《しらが》の婆さんの、お前さんとは知己《ちかづき》と見えるのが、向うから声をかけたっけ。お前さんが話に夢中で、気が着かなんだものだから、そのままほくほく去《い》ってしまった。
 私も聞
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