嘉吉はそれから、あの通り気が変になりました。
さあ、界隈《かいわい》は評判で、小児《こども》どもが誰云うとなく、いつの間やら、その唄を……」
十二
[#ここから4字下げ]
(ここはどこの細道じゃ、
細道じゃ。
秋谷|邸《やしき》の細道じゃ、
細道じゃ。
少し通して下さんせ、
下さんせ。
誰方《どなた》が見えても通しません、
通しません。)
[#ここで字下げ終わり]
「あの、こう唄うのではござりませんか。
当節は、もう学校で、かあかあ鴉《からす》が鳴く事の、池の鯉《こい》が麩《ふ》を食う事の、と間違いのないお前様、ちゃんと理の詰んだ歌を教えさっしゃるに、それを皆が唄わいで、今申した――
[#ここから4字下げ]
(ここはどこの細道じゃ、
秋谷邸の細道じゃ。)
[#ここで字下げ終わり]
とあわれな、寂しい、細い声で、口々に、小児《こども》同士、顔さえ見れば唄い連れるでござりますが、近頃は久しい間、打絶えて聞いたこともござりませぬ――この唄を爺どのがその晩聞かしった、という話|以来《このかた》、――誰云うと
前へ
次へ
全189ページ中45ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング