て、嘉吉の横顔へびしりと来たげな。
きゃっ!と云うと刎《はね》返って、道ならものの小半町、膝と踵《かかと》で、抜いた腰を引摺《ひきず》るように、その癖、怪飛《けしと》んで遁《に》げて来る。
爺どのは爺どので、息を詰めた汗の処へ、今のきゃあ!で転倒《てんどう》して、わっ、と云うて山の根から飛出す処へ、胸を頭突《ずつき》に来るように、ドンと嘉吉が打附《ぶつか》ったので、両方へ間を置いて、この街道の真中《まんなか》へ、何と、お前様、見られた図ではござりますか。
二人とも尻餅じゃ。
(ど、どうした野郎、)と小腹も立つ、爺どのが恐怖紛《おっかなまぎ》れに、がならっしゃると、早や、変でござりましたげな、きょろん、とした眼《がん》の見据えて、私《わし》が爺の宰八の顔をじろり。
(ば、ば、ば、)
(ええ!)
(怪物《ばけもの》!)と云うかと思うと、ひょいと立って、またばたばたと十足《とあし》ばかり、駆戻って、うつむけに突んのめったげにござりまして、のう。
爺どのは二度|吃驚《びっくり》、起《た》ちかけた膝がまたがっくりと地面《じべた》へ崩れて、ほっと太い呼吸《いき》さついた。かっとなって浪の音
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