は冷汗|掻《か》いたげな。や、それでも召ものの裾《すそ》に、草鞋《わらじ》が引《ひっ》かかりましたように、するすると嘉吉に抱かれて、前ざまに行《ゆ》かっしゃったそうながの、お前様、飛んでもない、」
「怪《け》しからん事を――またしたもんです。」
 と小次郎法師は苦り切る。

       十一

 姥《うば》は分別あり顔に、
「一目見たら、その御|容子《ようす》だけでなりと、分りそうなものでござります。
 貴女《あなた》が神にせよ、また人間にしました処で、嘉吉づれが口を利かれます御方ではござりませぬ。そうでなくとも、そんな御恩を被《こうむ》ったでござりますもの。拝むにも、後姿でのうては罰の当ります処、悪党なら、お前様、発心のしどころを。
 根が悪徒ではござりませぬ、取締りのない、ただぼうと、一夜酒《ひとよざけ》が沸いたような奴《やっこ》殿じゃ。薄《すすき》も、蘆《あし》も、女郎花《おみなえし》も、見境《みさかい》はござりませぬ。
 髪が長けりゃ女じゃ、と合点して、さかりのついた犬同然、珠を頂いた御恩なぞも、新屋の姉《あね》えに、藪《やぶ》の前で、牡丹餅《ぼたもち》半分分けてもろうた了簡
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