空の森は暗し、爺どのは、身震いをしたと申しますがの。」
十
「利かぬ気の親仁《おやじ》じゃ、お前様、月夜の遠見に、纏《まと》ったものの形は、葦簀張《よしずばり》の柱の根を圧《おさ》えて置きます、お前様の背後《うしろ》の、その石※[#「石+鬼」、第4水準2−82−48]《いしころ》か、私《わし》が立掛けて置いて帰ります、この床几《しょうぎ》の影ばかり。
大崩壊《おおくずれ》まで見通しになって、貴女《あなた》の姿は、蜘蛛巣《くものす》ほども見えませぬ。それをの、透かし透かし、山際に附着《くッつ》いて、薄墨引いた草の上を、跫音《あしおと》を盗んで引返《ひっかえ》しましたげな。
嘉吉をどう始末さっしゃるか、それを見届けよう、という、爺《じじい》どの了簡《りょうけん》でござります。
荷車はの、明神様石段の前を行《ゆ》けば、御存じの三崎街道、横へ切れる畦道《あぜみち》が在所の入口でござりますで、そこへ引込んだものでござります。人気も穏《おだやか》なり、積んだものを見たばかりで、鶴谷様御用、と札の建ったも同一《おなじ》じゃで、誰も手の障《さ》え人《て》はござりませぬで。
爺
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