へ雪のような手を伸《のば》して、荷車ごと爺《じい》どのを、推遣《おしや》るようにさっせえた。お手の指が白々と、こう輻《やぼね》の上で、糸車に、はい、綿屑がかかったげに、月の光で動いたらばの、ぐるぐるぐると輪が廻って、爺《じじい》どのの背《せなか》へ、荷車が、乗被《のっかぶ》さるではござりませぬか。」
「おおおお、」
 と、法師は目を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》って固唾《かたず》を呑む。
「吃驚《びっくり》亀の子、空へ何と、爺どのは手を泳がせて、自分の曳《ひ》いた荷車に、がらがら背後《うしろ》から押出されて、わい、というたぎり、一呼吸《ひといき》に村の取着《とッつ》き、あれから、この街道が鍋《なべ》づる形《なり》に曲ります、明神様、森の石段まで、ひとりでに駆出しましたげな。
 もっとも見さっしゃります通り、道はなぞえに、向《むこう》へ低くはなりますが、下り坂と云う程ではなし、その疾《はや》いこと。一なだれに辷《すべ》ったようで、やっと石段の下で、うむ、とこたえて踏留まりますと、はずみのついた車めは、がたがたと石ころの上を空廻りして、躍ったげにござります。
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