、地の上へ着けるように、嘉吉の頭を下ろさっせえた。
 足をばたばたの、手によいよい、輻《やぼね》も蹴《け》はずしそうに悶《もが》きますわの。
(ああ、お前はもう可《い》いから。)邪魔もののようにおっしゃったで、爺どのは心外じゃ……
 何の、心外がらずともの、いけずな親仁《おやじ》でござりますがの、ほほ、ほほ。」
「いや、いや、私が聞いただけでも、何か、こうわざと邪慳《じゃけん》に取扱ったようで、対手《あいて》がその酔漢《よいどれ》を労《いたわ》るというだけに、黙ってはおられません。何だか寝覚《ねざめ》が悪いようだね。」
「ええ、串戯《じょうだん》にも、氏神様《うじがみさま》の知己《ちかづき》じゃと言わっしゃりましたけに、嘉吉を荷車に縛りましたのは、明神様の同一《おなじ》孫児《まごこ》を、継子《ままこ》扱いにしましたようで、貴女《あなた》へも聞えが悪うござりますので。
 綿の上積《うわづみ》[#ルビの「うわづみ」は底本では「うわずみ」]一件から荷に奴《やっこ》を縛ったは、爺《じい》どのが自分したことではない事を、言訳がましく饒舌《しゃべ》りますと、(可いから、お前はあっちへ、)と、こうじ
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