、肩が細《ほっそ》りしましたげなよ。」

       九

「介抱しよう、お下ろしな、と言わっしゃる。
 その位な荒療治で、寝汗一つ取れる奴か。打棄《うっちゃ》っておかっせえ。面倒臭い、と顱巻《はちまき》しめた頭を掉《ふ》って云うたれば、どこまで行《ゆ》く、と聞かしっけえ。
 途中さまざまの隙《ひま》ざえで、爺《じじい》どのもむかっぱらじゃ、秋谷鎮座の明神様、俺等《わしら》が産神《うぶすな》へ届け物だ、とずッきり饒舌《しゃべ》ると、
(受取りましょう、ここで可《い》いから。)
(お前様は?)
(ああ、明神様の侍女《こしもと》よ。)と言わっしゃった。
 月に浪が懸《かか》りますように、さらさらと、風が吹きますと、揺れながらこの葦簀《よしず》の蔭が、格子|縞《じま》のように御袖へ映って、雪の膚《はだ》まで透通って、四辺《あたり》には影もない。中空を見ますれば、白鷺《しらさぎ》の飛ぶような雲が見えて、ざっと一浪打ちました。
 爺どのは悚然《ぞっ》として、はい、はい、と柔順《すなお》になって、縄を解くと、ずりこけての、嘉吉のあの図体が、どたりと荷車から。貴女《あなた》は擡《もた》げた手を下へ
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