っしろ》なのを顔に当てて、団扇《うちわ》が衣服《きもの》を掛けたげな、影の涼しい、姿の長い、裾《すそ》の薄|蒼《あお》い、悚然《ぞっ》とするほど美しらしいお人が一方。
 すらすら道端へ出さっせての、
(…………)
 爺どのを呼留めて、これは罪人か――と問わしつけえよ。
 食物《くいもの》も代物《しろもの》も、新しい買物じゃ。縁起でもない事の。罪人を上積みにしてどうしべい、これこれでござる。と云うと、可哀相に苦しかろう、と団扇を取って、薄い羽のように、一文字に、横に口へ啣《くわ》えさしった。
 その時は、爺どのの方へ背《せなか》を向けて、顔をこう斜《はす》っかいに、」
 と法師から打背《うちそむ》く、と俤《おもかげ》のその薄月の、婦人《おんな》の風情を思遣《おもいや》ればか、葦簀《よしず》をはずれた日のかげりに、姥の頸《うなじ》が白かった。
 荷物の方へ、するすると膝を寄せて、
「そこで?」
「はい、両手を下げて、白いその両方の掌《てのひら》を合わせて、がっくりとなった嘉吉の首を、四五本目の輻《やぼね》の辺《あたり》で、上へ支《ささ》げて持たっせえた。おもみが掛《かか》ったか、姿を絞って
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