八
「……おう、宰八か。お爺《じい》、在所へ帰るだら、これさ一個《ひとつ》、産神様《うぶすなさま》へ届けてくんな。ちょうどはい、その荷車は幸《さいわい》だ、と言わっしゃる。
見ると、お前様、嘉吉めが、今申したその体《てい》でござりましょ。
同《おんな》じ産神様|氏子《うじこ》夥間《なかま》じゃ。承知なれど、私《わし》はこれ、手がこの通り、思うように荷が着けられぬ。御身《おみ》たちあんばいよう直さっしゃい、荷の上へ載《の》せべい、と爺《じじい》どのが云いますとの。
何《あに》お爺《じ》い、そのまま上へ積まっしゃい、と早や二人して、嘉吉めが天窓《あたま》と足を、引立てるではござりませぬか。
爺どのが、待たっしゃい、鶴谷様のお使いで、綿を大《いか》いこと買うて来たが、醤油樽や石油缶の下積になっては悪かんべいと、上荷に積んであるもんだ。喜十郎旦那が許《とこ》で、ふっくりと入れさっしゃる綿の初穂へ、その酒浸しの怪物《ばけもの》さ、押《おっ》ころばしては相成んねえ、柔々《やわやわ》積方も直さっしゃい、と利かぬ手の拳《こぶし》を握って、一力味《ひとりきみ》力みましけ。
七面倒な、こうす
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