のある男が、力を貸して、船頭まじりに、この徒《てあい》とて確《たしか》ではござりませなんだ。ひょろひょろしながら、あとのまず二|樽《たる》は、荷《にな》って小売|店《みせ》へ届けました。
嘉吉の始末でござります。それなり船の荷物にして、積んで帰れば片附きますが、死骸《しがい》ではない、酔ったもの、醒《さ》めた時の挨拶が厄介じゃ、とお船頭は遁《にげ》を打って、帆を掛けて、海の靄《もや》へと隠れました。
どの道訳を立ていでは、主人方へ帰られる身体ではござりませぬで、一まず、秋谷の親許《おやもと》へ届ける相談にかかりましたが、またこのお荷物が、御覧の通りの大男。それに、はい、のめったきり、捏《てこ》でも動かぬに困《こう》じ果てて、すっぱすっぱ煙草《たばこ》を吹かすやら、お前様、嚔《くしゃみ》をするやら、向脛《むかはぎ》へ集《たか》る蚊を踵《かかと》で揉殺《もみころ》すやら、泥に酔った大鮫《おおざめ》のような嘉吉を、浪打際に押取巻《おっとりま》いて、小田原|評定《ひょうじょう》。持て余しておりました処へ、ちょうど荷車を曳《ひ》きまして、藤沢から一日|路《みち》、この街道つづきの長者園の土手
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