代って漕《こ》げさ、と滅多押しに、それでも、大崩壊《おおくずれ》の鼻を廻って、出島の中へ漕ぎ入れたでござります。
 さあ、内海《うちうみ》の青畳、座敷へ入ったも同《おんな》じじゃ、と心が緩むと、嘉吉|奴《め》が、酒代を渡してくれ、勝負が済むまで内金を受取ろう、と櫓を離した手に銭《おあし》を握ると、懐へでも入れることか、片手に、あか柄杓《びしゃく》を持ったなりで、チョボ一の中へ飛込みましたが。
 はて、河童《かっぱ》野郎、身投《みなげ》するより始末の悪さ。こうなっては、お前様、もう浮ぶ瀬はござりませぬ。
 取られて取られて、とうとう、のう、御主人へ持って行《ゆ》く、一樽のお代を無《みな》にしました。処で、自棄《やけ》じゃ、賽の目が十《とお》に見えて、わいらの頭が五十ある、浜がぐるぐる廻るわ廻るわ。さあ漕がば漕げ、殺さば殺せ、とまたふんぞった時分には、ものの一斗ぐらい嘉吉一人で飲んだであろ。七人のあたまさえ四斗樽、これがあらかた片附いて、浜へ樽を上げた時、重いつもりで両手をかけて、えい、と腰を切った拍子抜けに、向うへのめって、樽が、ばっちゃん、嘉吉がころり、どんとのめりましたきり、早や死ん
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