遣わされ、と咽喉《のど》をごくごくさして、口を開けるで、さあ、飲まっせえ、と注《つ》ぎにかかる、と幾干《いくら》か差引くか、と念を推したげで、のう、ここらは確《たしか》でござりました。
 幡随院長兵衛じゃ、酒を振舞うて銭を取るか。しみったれたことを云うな、と勝った奴がいきります。
 お手渡《てわたし》で下される儀は、皆の衆も御面倒、これへ、と云うて、あか柄杓《びしゃく》を突出いて、どうどうと受けました。あの大面《おおづら》が、お前様、片手で櫓を、はい、押しながら、その馬柄杓《ばびしゃく》のようなもので、片手で、ぐいぐいと煽《あお》ったげな。
 酒は一樽|打抜《ぶちぬ》いたで、ちっとも惜気《おしげ》はござりませぬ。海からでも湧出すように、大気になって、もう一つやらっせえ、丁だ、それ、心祝いに飲ますべい、代は要らぬ。
 帰命頂礼《きみょうちょうらい》、賽《さい》ころ明神の兀天窓《はげあたま》、光る光る、と追従《ついしょう》云うて、あか柄杓へまた一杯、煽るほどに飲むほどに、櫓拍子《ろびょうし》が乱になって、船はぐらぐら大揺れ小揺れじゃ、こりゃならぬ、賽が据《すわ》らぬ。
 ええ、気に入らずば
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