しながら、つくづく不平らしく、海に向って、高慢な舌打して、
「ああ、退屈だ。」
と呟《つぶや》くと、頭上の崖《がけ》の胴中《どうなか》から、異声を放って、
「親孝行でもしろ――」と喚《わめ》いた。
ために、その少年は太《いた》く煩い附いたと云う。
そんなこんなで、そこが魔所だの風説は、近頃一層甚しくなって、知らずに大崩壊《おおくずれ》へ上《のぼ》るのを、土地の者が見着けると、百姓は鍬《くわ》を杖支《つえつ》き、船頭は舳《みよし》に立って、下りろ、危い、と声を懸ける。
実際魔所でなくとも、大崩壊の絶頂は薬研《やげん》を俯向《うつむ》けに伏せたようで、跨《また》ぐと鐙《あぶみ》の無いばかり。馬の背に立つ巌《いわお》、狭く鋭く、踵《くびす》から、爪先《つまさき》から、ずかり中窪《なかくぼ》に削った断崖《がけ》の、見下ろす麓《ふもと》の白浪に、揺落《ゆりおと》さるる思《おもい》がある。
さて一方は長者園の渚《なぎさ》へは、浦の波が、静《しずか》に展《ひら》いて、忙《せわ》しくしかも長閑《のどか》に、鶏《とり》の羽《は》たたく音がするのに、ただ切立《きった》ての巌《いわ》一枚、一方は太
前へ
次へ
全189ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング