は、この辺ではここが多い。
一夏|激《はげし》い暑さに、雲の峰も焼いた霰《あられ》のように小さく焦げて、ぱちぱちと音がして、火の粉になって覆《こぼ》れそうな日盛《ひざかり》に、これから湧《わ》いて出て人間になろうと思われる裸体《はだか》の男女が、入交《いりまじ》りに波に浮んでいると、赫《かっ》とただ金銀銅鉄、真白《まっしろ》に溶けた霄《おおぞら》の、どこに亀裂《ひび》が入ったか、破鐘《われがね》のようなる声して、
「泳ぐもの、帰れ。」と叫んだ。
この呪詛《のろい》のために、浮べる輩《やから》はぶくりと沈んで、四辺《あたり》は白泡《しらあわ》となったと聞く。
また十七ばかり少年の、肋膜炎《ろくまくえん》を病んだ挙句が、保養にとて来ていたが、可恐《おそろし》く身体《からだ》を気にして、自分で病理学まで研究して、0,[#「,」は天地左右中央]などと調合する、朝夕《ちょうせき》検温気で度を料《はか》る、三度の食事も度量衡《はかり》で食べるのが、秋の暮方、誰も居ない浪打際を、生白い痩脛《やせずね》の高端折《たかはしょり》、跣足《はだし》でちょびちょび横|歩行《ある》きで、日課のごとき運動を
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