んだ、顔を俯向《うつむ》けに、撫肩《なでがた》の、細く袖を引合わせて、胸を抱いたが、衣紋《えもん》白く、空色の長襦袢《ながじゅばん》に、朱鷺色《ときいろ》の無地の羅《うすもの》を襲《かさ》ねて、草の葉に露の玉と散った、浅緑の帯、薄き腰、弱々と糸の艶に光を帯びて、乳《ち》のあたり、肩のあたり、その明りに、朱鷺色が、浅葱《あさぎ》が透き、膚《はだ》の雪も幽《かすか》に透く。
黒髪かけて、襟かけて、月の雫《しずく》がかかったような、裾《すそ》は捌《さば》けず、しっとりと爪尖《つまさ》き軽《かろ》く、ものの居て腰を捧げて進むるごとく、底の知れない座敷をうしろに、果《はて》なき夜の暗さを引いたが、歩行《ある》くともなく立寄って、客僧に近寄る時、いつの間にか襖が開くと、左右に雪洞《ぼんぼり》が二つ並んで、敷居際に差向って、女の膝ばかりが控えて見える。そのいずれかが狗《いぬ》の顔、と思いをめぐらす暇もない。
僧は前に彳《たたず》んだのを差覗《さしのぞ》くように一目見て、
「わッ、」
とばかりに平伏《ひれふ》した。実《げ》にこそその顔《かんばせ》は、爛々たる銀《しろがね》の眼《まなこ》一|双《な
前へ
次へ
全189ページ中171ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング