る。
客は女性《にょしょう》でござるに因って、一応|拙者《それがし》から申入れる。ためにこれへ罷出《まかりいで》た。
秋谷悪左衛門取次を致す、」
と高らかに云って、穏和《おだやか》に、
「お逢い下さりょうか、いかが、」
と云った。
僧は思わず、
「は、」と答える。
声も終らず、小山のごとく膝を揺《ゆら》げ、向け直したと見ると、
「ござらっしゃい!」
破鐘《われがね》のごときその大音、哄《どっ》と響いた。目くるめいて、魂遠くなるほどに、大魔の形体《ぎょうたい》、片隅の暗がりへ吸込《すいこ》まれたようにすッと退《の》いた、が遥《はるか》に小さく、およそ蛍の火ばかりになって、しかもその衣《きぬ》の色も、袴《はかま》の色も、顔の色も、頭《かしら》の毛の総髪《そうがみ》も、鮮麗《あざやか》になお目に映る。
「御免遊ばせ。」
向うから襖一枚、颯《さっ》と蒼《あお》く色が変ると、雨浸《あまじみ》の鬼の絵の輪郭を、乱れたままの輪に残して、ほんのり桃色がその上に浮いて出た。
ト見ると、房々とある艶《つや》やかな黒髪を、耳許《みみもと》白く梳《くしけず》って、櫛巻《くしまき》にすなおに結
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