》って、僧に背《せな》を摺寄《すりよ》せながら、
「経文を唱えて下せえ、入って来たわ、南無《なん》まいだ、なんまいだ。」
 僧も爪立《つまだ》って、浮腰《うきごし》に透かして見たが、
「行燈《あんどう》だよ、余り手間が取れるから、座敷から葉越さんが見においでだ。さあ、三人となると私も大きに心強い――ここは開《あ》くかい。」
「ええ、これ、開けてはなんねえちゅうに、」
「だって、あれ、あれ、助けてくれ、と云うものを。鬼神に横道なし、と云う、情《なさけ》に抵抗《てむか》う刃《やいば》はない筈《はず》、」
 枢《くるる》をかたかた、ぐっと、さるを上げて、ずずん、かたりと開ける、袖を絞って蔽《おお》い果さず、燈《あかり》は颯《さっ》と夜風に消えた。が、吉野紙を蔽えるごとき、薄曇りの月の影を、隈《くま》ある暗き葎《むぐら》の中、底を分け出でて、打傾いて、その光を宿している、目の前の飛石の上を、四《よ》つに這廻《はいまわ》るは、そもいかなるものぞ。

       三十六

 声を聞いたより形を見れば、なお確実《たしか》に、飛石を這って呻《うめ》いていたのは、苦虫の仁右衛門であった。
 月明《つき
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