てくれ……と云うではないか。」
「へ、疾《はや》いもんだ。人の気を引きくさる、坊様と知って慈悲で釣るだね、開けまいぞ。」
 と云う時……判然《はっきり》聞えたが、しわがれた声であった。
「助けてくれ……」
「…………」
「…………」
「宰八よう、」――
 と、葎《むぐら》がくれに虫の声。
 手《てん》ぼう蟹《がに》ふるえ上って、
「ひゃあ、苦虫が呼ぶ。」
「何、虫が呼ぶ?」
「ええ、仁右衛門《にえむ》の声だ。南無阿弥陀仏《なんまいだ》、ソ、ソレ見さっせえ。宵に門前《もんまえ》から遁帰《にげかえ》った親仁めが、今時分何しにここへ来るもんだ。見ろ、畜生、さ、さすが畜生の浅間しさに、そこまでは心着かねえ。へい、人間様だぞ。おのれ、荒神様がついてござる、猿智慧《さるぢえ》だね、打棄《うっちゃ》っておかっせえまし。」
 と雨戸を離れて、肩を一つ揺《ゆす》って行《ゆ》こうとする。広縁のはずれと覚しき彼方《かなた》へ、板敷を離るること二尺ばかり、消え残った燈籠《とうろう》のような白紙《しらかみ》がふらりと出て、真四角《まっしかく》に、燈《ともしび》が歩行《ある》き出した。
「はッあ、」
 と退《すさ
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