ゃつ》の大膚脱《おおはだぬぎ》、赤い団扇《うちわ》を帯にさして、手甲《てっこう》、甲掛《こうがけ》厳重に、荷をかついで続くは亭主。
 店から呼んだ姥の声に、女房がちょっと会釈する時、束髪《たばねがみ》の鬢《びん》が戦《そよ》いで、前《さき》を急ぐか、そのまま通る。
 前帯をしゃんとした細腰を、廂《ひさし》にぶらさがるようにして、綻《ほころ》びた脇の下から、狂人《きちがい》の嘉吉は、きょろりと一目。
 ふらふらと葭簀《よしず》を離れて、早や六七間行過ぎた、女房のあとを、すたすたと跣足《はだし》の砂路《すなみち》。
 ほこりを黄色に、ばっと立てて、擦寄って、附着《くッつ》いたが、女房のその洋傘《こうもり》から伸《のし》かかって見越《みこし》入道。
「イヒヒ、イヒヒヒ、」
「これ、悪戯《いたずら》をするでないよ。」
 と姥が爪立《つまだ》って窘《たしな》めたのと、笑声が、ほとんど一所に小次郎法師の耳に入った。
 あたかもその時、亭主驚いたか高調子に、
「傘や洋傘《こうもり》の繕い!――洋傘《こうもりがさ》張替《はりかえ》繕い直し……」
 蝉の鳴く音《ね》を貫いて、誰も通らぬ四辺《あたり》に響
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