ましょうに……」
「とんでもない。この団子でも石になれば、それで村方|勧化《かんげ》でもしようけれど、あいにく三界に家なしです。
しかし今聞いたようでは、さぞお前さんがたは寂《さみ》しかろうね。」
「はい、はい、いえ、御坊様の前で申しましては、お追従《ついしょう》のようでござりますが、仏様は御方便、難有《ありがた》いことでござります。こうやって愛想気《あいそっけ》もない婆々《ばば》が許《とこ》でも、お休み下さりますお人たちに、お茶のお給仕をしておりますれば、何やかや賑《にぎ》やかで、世間話で、ついうかうかと日を暮しますでござります。
ああ、もしもし、」
と街道へ、
「休まっしゃりまし。」と呼びかけた。
車輪のごとき大《おおき》さの、紅白|段々《だんだら》の夏の蝶、河床《かわどこ》は草にかくれて、清水のあとの土に輝く、山際に翼を廻すは、白の脚絆《きゃはん》、草鞋穿《わらじばき》、かすりの単衣《ひとえ》のまくり手に、その看板の洋傘《こうもり》を、手拭《てぬぐい》持つ手に差翳《さしかざ》した、三十《みそぢ》ばかりの女房で。
あんぺら帽子を阿弥陀《あみだ》かぶり、縞《しま》の襯衣《し
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