のを見て、石じゃ、と云うのでござりますよ。」
四
「それではお婆さん楽隠居だ。孫子がさぞ大勢あんなさろうね。」
と小次郎法師は、話を聞き聞き、子産石の方《かた》を覗《のぞ》きたれば、面白や浪の、云うことも上の空。
トお茶|注《さ》しましょうと出しかけた、塗盆《ぬりぼん》を膝に伏せて、ふと黙って、姥《うば》は寂しそうに傾いたが、
「何のお前様、この年になりますまで、孫子の影も見はしませぬ。爺《じじい》殿と二人きりで、雨のさみしさ、行燈《あんどう》の薄寒さに、心細う、果敢《はか》ないにつけまして、小児衆《こどもしゅう》を欲しがるお方の、お心を察しますで、のう、子産石も一つ一つ、信心して進じます。
長い月日の事でござりますから、里の人達は私等《わしら》が事を、人に子だねを進ぜるで、二人が実を持たぬのじゃ、と云いますがの、今ではそれさえ本望で、せめてもの心ゆかしでござりますよ。」
とかごとがましい口ぶりだったが、柔和な顔に顰《ひそ》みも見えず、温順に莞爾《にっこり》して、
「御新造様《ごしんぞさま》がおありなさりますれば、御坊様《ごぼうさま》にも一かさね、子産石を進ぜ
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