年より卯月《うづき》八日は吉日よ
    尾長《おなが》蛆虫《うじむし》成敗ぞする
[#ここで字下げ終わり]
「ここに倒《さかさま》にはってあるのは、これは誰方《どなた》がお書きなすった、」
「……南無阿弥陀仏《なまいだ》、南無阿弥陀仏……」
「ああ、佳《い》いおてだ。」
 と大和尚のように落着いて、大《おおき》く言ったが、やがてちと慌《あわただ》しげに小さな坊さまになって急いで出た。
「ええ、疾《はや》く出さっせえ、私《わし》もう押堪《おっこら》えて、座敷から庭へ出て用たすべい。」
「ほんとに誰が書いたんだね、女の手だが、」
 と掛手拭を賞《ほ》めた癖に、薄汚れた畳んだのを自分の袂《たもと》から出している。
「南無阿弥陀仏《なんまいだぶ》、ソ、それは、それ、この次の、次の、小座敷で亡くならしっけえ、どっかの嬢様が書いて貼《は》っただとよ、直《じ》きそこだ、今ソンな事あどうでも可《え》え。頭から、慄然《ぞっ》とするだに、」
「そうかい、ああ私も今、手を拭《ふ》こうとすると、真新しい切立《きりたて》の掛手拭が、冷く濡れていたのでヒヤリとした。」
「や、」と横飛びにどたりと踏んだが、その跫
前へ 次へ
全189ページ中139ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
泉 鏡花 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング