の、この出窓の下に、手水《ちょうず》鉢があったのを、入りしなに見ておいたが、広いので暗くて分らなくなりました。」
「ああ、手、洗わっしゃるのかね、」
と手燭ばかりを、ずいと出して、
「鉢前にゃ、夜《よ》が明けたら見さっせえまし、大した唐銅《からかね》の手水鉢の、この邸さ曳《ひ》いて来る時分に牛一頭かかった、見事なのがあるけんど、今開ける気はしましねえ。……」
ええ、そよら、そよらと風だ。
そ、その鉢にゃ水があれば可《い》いがね、無くば座敷まで我慢さっせえまし、土瓶の残《のこり》を注《か》けて進ぜる。」
「あります、あります。」
ざっと音をさして、
「冷い美しい水が、満々《なみなみ》とありますよ。」
「嘘を吐《つ》くもんでェねえ。なに美《うつくし》い水があんべい。井戸の水は真蒼《まっさお》で、小川の水は白濁りだ。」
「じゃあ燭《あかり》で見るせいだろうか、」
「そして、はあ、何なみなみとあるもんだ。」
「いいえ、縁切《ふちきり》こぼれるようだよ。ああ、葉越さんは綺麗好きだと見える。真白《まっしろ》な手拭《てぬぐい》が、」
と言いかけてしばらく黙った。
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