は臆病で遁《に》げただよ。見さっせえ、韋駄天《いだてん》のように木の下を駆出し、川べりの遠くへ行く仁右衛門親仁を、
(おおい、おおい、)
 と茶番の定九郎《さだくろう》を極《き》めやあがる。」

       三十四

 その夜に限って何事もなく、静かに。……寝ようという時、初夜過ぎた。
 宰八が手燭《てしょく》に送られて、広縁を折曲って、遥《はる》かに廻廊を通った僧は、雨戸の並木を越えたようで、故郷《ふるさと》には蚊帳を釣って、一人寂しく友が待つ思《おもい》がある。
「ここかい。」
「それを左へ開けさっせえまし、入口の板敷から二ツ目のが、男が立って遣《や》るのでがす。行抜けに北の縁側へも出られますで、お前様《めえさま》帰りがけに取違えてはなんねえだよ。
 二三年この方、向うへは誰も通抜けた事がねえで、当節柄じゃ、迷込んではどこへ行くか、ハイ方角が着きましねえ。」
「もう分りましたよ。」
「可《よ》かあねえ、私《わし》、ここに待っとるで、燈《あかり》をたよりに出て来さっせえ。
 私も、この障子の多《いか》いこと続いたのに、めらめら破れのある工合《ぐあい》が、ハイ一ツ一ツ白髑髏《しゃれか
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