れば渡り、山があれば越し、里には宿って、国々を歩行《ある》きますのも、詮《せん》ずる処、ある意味の手毬唄を……」
「手毬唄を。……いかがな次第でございます。」
「夢とも、現《うつつ》とも、幻とも……目に見えるようで、口には謂《い》えぬ――そして、優しい、懐《なつか》しい、あわれな、情のある、愛の籠《こも》った、ふっくりした、しかも、清く、涼しく、悚然《ぞっ》とする、胸を掻※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《かきむし》るような、あの、恍惚《うっとり》となるような、まあ例えて言えば、芳《かんば》しい清らかな乳を含みながら、生れない前《さき》に腹の中で、美しい母の胸を見るような心持の――唄なんですが、その文句を忘れたので、命にかけて、憧憬《あこが》れて、それを聞きたいと思いますんです。」
この数分時の言《ことば》の中《うち》に、小次郎法師は、生れて以来、聞いただけの、風と水と、鐘の音、楽、あらゆる人の声、虫の音《ね》、木《こ》の葉の囁《ささや》きまで、稲妻のごとく胸の裡《うち》に繰返し、なおかつ覚えただけの経文を、颯《さっ》と金字《こんじ》紺泥《こんでい》に瞳に描いて試みたが、
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