な可怖《おそろし》い只中《ただなか》に、よく御辛抱なさいます、実に大胆でおいでなさる。」
「私くらい臆病《おくびょう》なものはありません。……臆病で仕方がないから、なるがまかせに、抵抗しないで、自由になっているのです。」
「さあ、そこでございます。それを伺いたいのが何より目的《めあて》で参りましたが、何か、その御研究でもなさりたい思召《おぼしめし》で。」
「どういたしまして、私の方が研究をされていても、こちらで研究なんぞ思いも寄らんのです。」
「それでは、外に、」
「ええ、望み――と申しますと、まだ我《が》があります。実は願事があって、ここにこうして、参籠《さんろう》、通夜をしておりますようなものです。」
二十九
「それが貴僧《あなた》、前刻《さっき》お話をしかけました、あの手毬《てまり》の事なんです。」
「ああ、その手毬が、もう一度御覧なさりたいので。」
「いいえ、手毬の歌が聞きたいのです。」
と、うっとりと云った目の涼しさ。月の夢を見るようなれば、変った望み、と疑いの、胸に起る雲消えて、僧は一膝《ひとひざ》進めたのである。
「大空の雲を当てにいずことなく、海があ
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