》に、一幅の中へ縮まった景色の時、本堂の背後《うしろ》、位牌堂《いはいどう》の暗い畳廊下から、一人水際立った妖艶《うつくし》いのが、突きはせず、手鞠を袖に抱いたまま、すらすらと出て、卵塔場を隔てた几帳窓《きちょうまど》の前を通る、と見ると、もう誰の蔭になったか人数《ひとかず》に紛れてしまった。それだ、この人は、いや、その時と寸分違わぬ――
と僧は心に――大方明も鐘撞堂から、この状《さま》を、今|視《なが》めている夢であろう。何かの拍子に、その鐘が鳴ると目が覚めよう、と思う内……
身動《みじろ》ぎに、この美女《たおやめ》の鬢《びん》の後《おく》れ毛、さらさらと頬に掛《かか》ると、その影やらん薄曇りに、目《ま》ぶちのあたりに寂しくなりぬ。
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(笄《こうがい》落し小枕《こまくら》落し……)
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と綾《あや》に取る、と根が揺らいで、さっと黒髪が肩に乱るる。
みだれし風采《とりなり》恥かしや、早これまでと思うらん。落した手毬を、女《め》の童《わらわ》の、拾って抱くのも顧みず、よろよろと立《たち》かかった、蚊帳に姿を引寄せられ、褄《つま》のこぼれた立姿。
屋の棟|熟《じっ》と打仰いで、
「あれ、あれ、雲が乱るる。――花の中に、母君の胸が揺《ゆら》ぐ。おお、最惜《いとお》しの御子《おこ》に、乳飲まそうと思召すか。それとも、私が挙動《ふるまい》に、心騒ぎのせらるるか。客僧方《あなたがた》には見えまいが、地《じ》の底に棲《す》むものは、昼も星の光を仰ぐ。御姿かたちは、よく見えても、かしこは天宮、ここは地獄、言《ことば》といっては交わされない。
美しき夢見るお方、」
あれ、かしこに母君|在《まし》ますぞや。愛惜《あいじゃく》の一念のみは、魔界の塵《ちり》にも曇りはせねば、我が袖、鏡と御覧ぜよ。今、この瞳に宿れる雫《しずく》は、母君の御情《おんなさけ》の露を取次ぎ参らする、乳《ち》の滴《したたり》ぞ、と袂《たもと》を傾け、差寄せて、差俯《さしうつむ》き、はらはらと落涙して、
「まあ、稚児《おさなご》の昔にかえって、乳を求めて、……あれ、目を覚す……」
さらば、さらば、御僧《おんそう》。この人夢の覚めぬ間に、と片手をついて、わかれの会釈。
ト玄関から、庭前《にわさき》かけて、わやわやざわざわ、物音、人声。
目を擦《こす》り、目
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