《わたし》の手《て》を握《にぎ》つた。
「下《お》りませう。是非《ぜひ》、談話《はなし》があります。」
立《た》つて見送《みおく》れば、其《そ》の婦《をんな》を乘《の》せた電車《でんしや》は、見附《みつけ》の谷《たに》の窪《くぼ》んだ廣場《ひろば》へ、すら/\と降《お》りて、一度《いちど》暗《くら》く成《な》つて停《と》まつたが、忽《たちま》ち風《かぜ》に乘《の》つたやうに地盤《ぢばん》を空《そら》ざまに颯《さつ》と坂《さか》へ辷《すべ》つて、青《あを》い火花《ひばな》がちらちらと、櫻《さくら》の街樹《なみき》に搦《から》んだなり、暗夜《くらがり》の梢《こずゑ》に消《き》えた。
小雨《こさめ》がしと/\と町《まち》へかゝつた。
其處《そこ》で珈琲店《コオヒイてん》へ連立《つれだ》つて入《はひ》つたのである。
こゝに、一寸《ちよつと》斷《ことわ》つておくのは、工學士《こうがくし》は嘗《かつ》て苦學生《くがくせい》で、其《その》當時《たうじ》は、近縣《きんけん》に賣藥《ばいやく》の行商《ぎやうしやう》をした事《こと》である。
二
「利根川《とねがは》の流《ながれ
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