、此《こ》の婦《をんな》は花《はな》が霞《かすみ》を包《つゝ》むのである。膚《はだへ》が衣《きぬ》を消《け》すばかり、其《そ》の浴衣《ゆかた》の青《あを》いのにも、胸襟《むねえり》のほのめく色《いろ》はうつろはぬ、然《しか》も湯上《ゆあが》りかと思《おも》ふ温《あたゝか》さを全身《ぜんしん》に漲《みなぎ》らして、髮《かみ》の艶《つや》さへ滴《したゝ》るばかり濡々《ぬれ/\》として、其《それ》がそよいで、硝子窓《がらすまど》の風《かぜ》に額《ひたひ》に絡《まつ》はる、汗《あせ》ばんでさへ居《ゐ》たらしい。
ふと明《あ》いた窓《まど》へ横向《よこむ》きに成《な》つて、ほつれ毛《げ》を白々《しろ/″\》とした指《ゆび》で掻《か》くと、あの花《はな》の香《か》が強《つよ》く薫《かを》つた、と思《おも》ふと緑《みどり》の黒髮《くろかみ》に、同《おな》じ白《しろ》い花《はな》の小枝《こえだ》を活《い》きたる蕚《うてな》、湧立《わきた》つ蕊《しべ》を搖《ゆる》がして、鬢《びんづら》に插《さ》して居《ゐ》たのである。
唯《と》、見《み》た時《とき》、工學士《こうがくし》の手《て》が、確《しか》と私
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