けねん》と云《い》へば懸念《けねん》なので、工學士《こうがくし》が――鯉《こひ》か鼈《すつぽん》か、と云《い》つたのは此《これ》であるが……
 此《こ》の媚《なま》めいた胸《むね》のぬしは、顏立《かほだ》ちも際立《きはだ》つて美《うつく》しかつた。鼻筋《はなすぢ》の象牙彫《ざうげぼり》のやうにつんとしたのが難《なん》を言《い》へば強過《つよす》ぎる……かはりには目《め》を恍惚《うつとり》と、何《なに》か物思《ものおも》ふ體《てい》に仰向《あをむ》いた、細面《ほそおも》が引緊《ひきしま》つて、口許《くちもと》とともに人品《じんぴん》を崩《くづ》さないで且《か》つ威《ゐ》がある……其《そ》の顏《かほ》だちが帶《おび》よりも、きりゝと細腰《ほそごし》を緊《し》めて居《ゐ》た。面《おもて》で緊《し》めた姿《すがた》である。皓齒《しらは》の一《ひと》つも莞爾《につこり》と綻《ほころ》びたら、はらりと解《と》けて、帶《おび》も浴衣《ゆかた》も其《そ》のまゝ消《き》えて、膚《はだ》の白《しろ》い色《いろ》が颯《さつ》と簇《むらが》つて咲《さ》かう。霞《かすみ》は花《はな》を包《つゝ》むと云《い》ふが
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