へ行《ゆ》くと學士《がくし》の背廣《せびろ》が明《あかる》いくらゐ、今《いま》を盛《さかり》と空《そら》に咲《さ》く。枝《えだ》も梢《こずゑ》も撓《たわゝ》に滿《み》ちて、仰向《あをむ》いて見上《みあ》げると屋根《やね》よりは丈《たけ》伸《の》びた樹《き》が、對《つゐ》に並《なら》んで二株《ふたかぶ》あつた。李《すもゝ》の時節《じせつ》でなし、卯木《うつぎ》に非《あら》ず。そして、木犀《もくせい》のやうな甘《あま》い匂《にほひ》が、燻《いぶ》したやうに薫《かを》る。楕圓形《だゑんけい》の葉《は》は、羽状複葉《うじやうふくえふ》と云《い》ふのが眞蒼《まつさを》に上《うへ》から可愛《かはい》い花《はな》をはら/\と包《つゝ》んで、鷺《さぎ》が緑《みどり》なす蓑《みの》を被《かつ》いで、彳《たゝず》みつゝ、颯《さつ》と開《ひら》いて、雙方《さうはう》から翼《つばさ》を交《かは》した、比翼連理《ひよくれんり》の風情《ふぜい》がある。
私《わたし》は固《もと》よりである。……學士《がくし》にも、此《こ》の香木《かうぼく》の名《な》が分《わか》らなかつた。
當日《たうじつ》、席《せき》でも聞合
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