へり》に恁《か》うした場所《ばしよ》へ立寄《たちよ》つた次第《しだい》ではない。
 本來《ほんらい》なら其《そ》の席《せき》で、工學士《こうがくし》が話《はな》した或種《あるしゆ》の講述《かうじゆつ》を、こゝに筆記《ひつき》でもした方《はう》が、讀《よ》まるゝ方々《かた/″\》の利益《りえき》なのであらうけれども、それは殊更《ことさら》に御海容《ごかいよう》を願《ねが》ふとして置《お》く。
 實《じつ》は往路《いき》にも同伴立《つれだ》つた。
 指《さ》す方《かた》へ、煉瓦塀《れんぐわべい》板塀《いたべい》續《つゞ》きの細《ほそ》い路《みち》を通《とほ》る、とやがて其《そ》の會場《くわいぢやう》に當《あた》る家《いへ》の生垣《いけがき》で、其處《そこ》で三《み》つの外圍《そとがこひ》が三方《さんぱう》へ岐《わか》れて三辻《みつつじ》に成《な》る……曲角《まがりかど》の窪地《くぼち》で、日蔭《ひかげ》の泥濘《ぬかるみ》の處《ところ》が――空《そら》は曇《くも》つて居《ゐ》た――殘《のこ》ンの雪《ゆき》かと思《おも》ふ、散敷《ちりし》いた花《はな》で眞白《まつしろ》であつた。
 下《した》
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