《コツプ》を控《ひか》へて云《い》つた。
私《わたし》は卷莨《まきたばこ》を點《つ》けながら、
「あゝ、結構《けつこう》。私《わたし》は、それが石地藏《いしぢざう》で、今《いま》のが姑護鳥《うぶめ》でも構《かま》ひません。けれども、それぢや、貴方《あなた》が世間《せけん》へ濟《す》まないでせう。」
六|月《ぐわつ》の末《すゑ》であつた。府下《ふか》澁谷《しぶや》邊《へん》に或《ある》茶話會《さわくわい》があつて、斯《こ》の工學士《こうがくし》が其《そ》の席《せき》に臨《のぞ》むのに、私《わたし》は誘《さそ》はれて一日《あるひ》出向《でむ》いた。
談話《はなし》の聽人《きゝて》は皆《みな》婦人《ふじん》で、綺麗《きれい》な人《ひと》が大分《だいぶ》見《み》えた、と云《い》ふ質《たち》のであるから、羊羹《やうかん》、苺《いちご》、念入《ねんいり》に紫《むらさき》袱紗《ふくさ》で薄茶《うすちや》の饗應《もてなし》まであつたが――辛抱《しんばう》をなさい――酒《さけ》と云《い》ふものは全然《まるで》ない。が、豫《かね》ての覺悟《かくご》である。それがために意地汚《いぢきたな》く、歸途《か
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