《きゝあは》せたが、居合《ゐあ》はせた婦人連《ふじんれん》が亦《また》誰《たれ》も知《し》らぬ。其《そ》の癖《くせ》、佳薫《いゝかをり》のする花《はな》だと云《い》つて、小《ちひ》さな枝《えだ》ながら硝子杯《コツプ》に插《さ》して居《ゐ》たのがあつた。九州《きうしう》の猿《さる》が狙《ねら》ふやうな褄《つま》の媚《なまめ》かしい姿《すがた》をしても、下枝《したえだ》までも屆《とゞ》くまい。小鳥《ことり》の啄《ついば》んで落《おと》したのを通《とほ》りがかりに拾《ひろ》つて來《き》たものであらう。
「お乳《ちゝ》のやうですわ。」
一人《ひとり》の處女《しよぢよ》が然《さ》う云《い》つた。
成程《なるほど》、近々《ちか/″\》と見《み》ると、白《しろ》い小《ちひ》さな花《はな》の、薄《うつす》りと色着《いろづ》いたのが一《ひと》ツ一《ひと》ツ、美《うつくし》い乳首《ちゝくび》のやうな形《かたち》に見《み》えた。
却説《さて》、日《ひ》が暮《く》れて、其《そ》の歸途《かへり》である。
私《わたし》たちは七丁目《なゝちやうめ》の終點《しうてん》から乘《の》つて赤坂《あかさか》の方《はう
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