き》もしなかつた。――其《そ》の内《うち》に、右《みぎ》の音《おと》が、壁《かべ》でも攀《よ》ぢるか、這上《はひあが》つたらしく思《おも》ふと、寢臺《ねだい》の脚《あし》の片隅《かたすみ》に羽目《はめ》の破《やぶ》れた處《ところ》がある。其《そ》の透間《すきま》へ鼬《いたち》がちよろりと覗《のぞ》くやうに、茶色《ちやいろ》の偏平《ひらつた》い顏《つら》を出《だ》したと窺《うかゞ》はれるのが、もぞり、がさりと少《すこ》しづゝ入《はひ》つて、ばさ/\と出《で》る、と大《おほ》きさやがて三俵法師《さんだらぼふし》、形《かたち》も似《に》たもの、毛《け》だらけの凝團《かたまり》、足《あし》も、顏《かほ》も有《あ》るのぢやない。成程《なるほど》、鼠《ねずみ》でも中《なか》に潛《もぐ》つて居《ゐ》るのでせう。
 其奴《そいつ》が、がさ/\と寢臺《ねだい》の下《した》へ入《はひ》つて、床《ゆか》の上《うへ》をずる/\と引摺《ひきず》つたと見《み》ると、婦《をんな》が掻卷《かいまき》から二《に》の腕《うで》を白《しろ》く拔《ぬ》いて、私《わたし》の居《ゐ》る方《はう》へぐたりと投《な》げた。寢亂《ねみ
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