も》はれた。」

        四

「私《わたし》の目《め》か眩《くら》んだんでせうか、婦《をんな》は瞬《またゝき》をしません。五|分《ふん》か一時《いつとき》と、此方《こつち》が呼吸《いき》をも詰《つ》めて見《み》ます間《あひだ》――で、餘《あま》り調《そろ》つた顏容《かほだち》といひ、果《はた》して此《これ》は白像彩塑《はくざうさいそ》で、何《ど》う云《い》ふ事《こと》か、仔細《しさい》あつて、此《こ》の廟《べう》の本尊《ほんぞん》なのであらう、と思《おも》つたのです。
 床《ゆか》の下《した》……板縁《いたえん》の裏《うら》の處《ところ》で、がさ/\がさ/\と音《おと》が發出《しだ》した……彼方《あつち》へ、此方《こつち》へ、鼠《ねずみ》が、ものでも引摺《ひきず》るやうで、床《ゆか》へ響《ひゞ》く、と其《そ》の音《おと》が、變《へん》に、恁《か》う上《うへ》に立《た》つてる私《わたし》の足《あし》の裏《うら》を擽《くすぐ》ると云《い》つた形《かたち》で、むづ痒《がゆ》くつて堪《たま》らないので、もさ/\身體《からだ》を搖《ゆす》りました。――本尊《ほんぞん》は、まだ瞬《またゝ
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