ン》と云《い》つた工合《ぐあひ》に、格天井《がうてんじやう》から床《ゆか》へ引《ひ》いて蔽《おほ》うてある。此《これ》に蔽《おほ》はれて、其《そ》の中《なか》は見《み》えません。
 此《これ》が、もつと奧《おく》へ詰《つ》めて張《は》つてあれば、絹一重《きぬひとへ》の裡《うち》は、すぐに、御廚子《みづし》、神棚《かみだな》と云《い》ふのでせうから、誓《ちか》つて、私《わたし》は、覗《のぞ》くのではなかつたのです。が、堂《だう》の内《うち》の、寧《むし》ろ格子《かうし》へ寄《よ》つた方《はう》に掛《かゝ》つて居《ゐ》ました。
 何心《なにごころ》なく、端《はし》を、キリ/\と、手許《てもと》へ、絞《しぼ》ると、蜘蛛《くも》の巣《す》のかはりに幻《まぼろし》の綾《あや》を織《お》つて、脈々《みやく/\》として、顏《かほ》を撫《な》でたのは、薔薇《ばら》か菫《すみれ》かと思《おも》ふ、いや、それよりも、唯今《たゞいま》思《おも》へば、先刻《さつき》の花《はな》の匂《にほひ》です、何《なん》とも言《い》へない、甘《あま》い、媚《なまめ》いた薫《かをり》が、芬《ぷん》と薫《かを》つた。」
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