學士《がくし》は手巾《ハンケチ》で、口《くち》を蔽《おほ》うて、一寸《ちよつと》額《ひたひ》を壓《おさ》へた――
「――其處《そこ》が閨《ねや》で、洋式《やうしき》の寢臺《ねだい》があります。二人寢《ふたりね》の寛《ゆつた》りとした立派《りつぱ》なもので、一面《いちめん》に、光《ひかり》を持《も》つた、滑《なめ》らかに艶々《つや/\》した、絖《ぬめ》か、羽二重《はぶたへ》か、と思《おも》ふ淡《あは》い朱鷺色《ときいろ》なのを敷詰《しきつ》めた、聊《いさゝ》か古《ふる》びては見《み》えました。が、それは空《そら》が曇《くも》つて居《ゐ》た所爲《せゐ》でせう。同《おな》じ色《いろ》の薄掻卷《うすかいまき》を掛《か》けたのが、すんなりとした寢姿《ねすがた》の、少《すこ》し肉附《にくづき》を肥《よ》くして見《み》せるくらゐ。膚《はだ》を蔽《おほ》うたとも見《み》えないで、美《うつくし》い女《をんな》の顏《かほ》がはらはらと黒髮《くろかみ》を、矢張《やつぱ》り、同《おな》じ絹《きぬ》の枕《まくら》にひつたりと着《つ》けて、此方《こちら》むきに少《すこ》し仰向《あをむ》けに成《な》つて寢《ね》て居
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