。鳥居《とりゐ》が一基《いつき》、其《そ》の傍《そば》に大《おほき》な棕櫚《しゆろ》の樹《き》が、五|株《かぶ》まで、一|列《れつ》に並《なら》んで、蓬々《おどろ/\》とした形《かたち》で居《ゐ》る。……さあ、此《これ》も邸《やしき》あとと思《おも》はれる一條《ひとつ》で、其《そ》の小高《こだか》いのは、大《おほ》きな築山《つきやま》だつたかも知《し》れません。
 處《ところ》で、一|錢《せん》たりとも茶代《ちやだい》を置《お》いてなんぞ、憩《やす》む餘裕《よゆう》の無《な》かつた私《わたし》ですが、……然《さ》うやつて賣藥《ばいやく》の行商《ぎやうしやう》に歩行《ある》きます時分《じぶん》は、世《よ》に無《な》い兩親《りやうしん》へせめてもの供養《くやう》のため、と思《おも》つて、殊勝《しゆしよう》らしく聞《きこ》えて如何《いかゞ》ですけれども、道中《だうちう》、宮《みや》、社《やしろ》、祠《ほこら》のある處《ところ》へは、屹《きつ》と持合《もちあは》せた藥《くすり》の中《なか》の、何種《なにしゆ》のか、一包《ひとつゝみ》づゝを備《そな》へました。――詣《まう》づる人《ひと》があつて
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