《き》て釣《つり》をしたのか、それとも、何《なん》の國《くに》、何《なん》の里《さと》、何《なん》の池《いけ》で釣《つ》つたのが、一種《いつしゆ》の蜃氣樓《しんきろう》の如《ごと》き作用《さよう》で此處《こゝ》へ映《うつ》つたのかも分《わか》りません。餘《あま》り靜《しづか》な、もの音《おと》のしない樣子《やうす》が、夢《ゆめ》と云《い》ふよりか其《そ》の海市《かいし》に似《に》て居《ゐ》ました。
沼《ぬま》の色《いろ》は、やゝ蒼味《あをみ》を帶《お》びた。
けれども、其《そ》の茶店《ちやみせ》の婆《ばあ》さんは正《しやう》のものです。現《げん》に、私《わたし》が通《とほ》り掛《がか》りに沼《ぬま》の汀《みぎは》の祠《ほこら》をさして、(あれは何樣《なにさま》の社《やしろ》でせう。)と尋《たづ》ねた時《とき》に、(賽《さい》の神樣《かみさま》だ。)と云《い》つて教《をし》へたものです。今《いま》其《そ》の祠《ほこら》は沼《ぬま》に向《むか》つて草《くさ》に憩《いこ》つた背後《うしろ》に、なぞへに道芝《みちしば》の小高《こだか》く成《な》つた小《ちひ》さな森《もり》の前《まへ》にある
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