ごと》くに撓《しな》つた、と思《おも》ふと、上《うへ》へ絞《しぼ》つた絲《いと》が眞直《まつすぐ》に伸《の》びて、するりと水《みづ》の空《そら》へ掛《かゝ》つた鯉《こひ》が――」
――理學士《りがくし》は言掛《いひか》けて、私《わたし》の顏《かほ》を視《み》て、而《そ》して四邊《あたり》を見《み》た。恁《か》うした店《みせ》の端近《はしぢか》は、奧《おく》より、二階《にかい》より、却《かへ》つて椅子《いす》は閑《しづか》であつた――
「鯉《こひ》は、其《それ》は鯉《こひ》でせう。が、玉《たま》のやうな眞白《まつしろ》な、あの森《もり》を背景《はいけい》にして、宙《ちう》に浮《う》いたのが、すつと合《あは》せた白脛《しろはぎ》を流《なが》す……凡《およ》そ人形《にんぎやう》ぐらゐな白身《はくしん》の女子《ぢよし》の姿《すがた》です。釣《つ》られたのぢやありません。釣針《つりばり》をね、恁《か》う、兩手《りやうて》で抱《だ》いた形《かたち》。
御覽《ごらん》なさい。釣濟《つりす》ました當《たう》の美人《びじん》が、釣棹《つりざを》を突離《つきはな》して、柳《やなぎ》の根《ね》へ靄《もや
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