、金鱗《きんりん》を重《おも》く輝《かゞや》かして、水《みづ》の上《うへ》へ飜然《ひらり》と飛《と》ぶ。」
三
「それよりも、見事《みごと》なのは、釣竿《つりざを》の上下《あげおろし》に、縺《もつ》るゝ袂《たもと》、飜《ひるがへ》る袖《そで》で、翡翠《かはせみ》が六《むつ》つ、十二の翼《つばさ》を飜《ひるがへ》すやうなんです。
唯《と》、其《そ》の白《しろ》い手《て》も見《み》える、莞爾《につこり》笑《わら》ふ面影《おもかげ》さへ、俯向《うつむ》くのも、仰《あふ》ぐのも、手《て》に手《て》を重《かさ》ねるのも其《そ》の微笑《ほゝゑ》む時《とき》、一人《ひとり》の肩《かた》をたゝくのも……莟《つぼみ》がひら/\開《ひら》くやうに見《み》えながら、厚《あつ》い硝子窓《がらすまど》を隔《へだ》てたやうに、まるつ切《きり》、聲《こゑ》が……否《いや》、四邊《あたり》は寂然《ひつそり》して、ものの音《おと》も聞《きこ》えない。
向《むか》つて左《ひだり》の端《はし》に居《ゐ》た、中《なか》でも小柄《こがら》なのが下《おろ》して居《ゐ》る、棹《さを》が滿月《まんげつ》の如《
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