だ》れて乳《ちゝ》も見《み》える。其《それ》を片手《かたて》で祕《かく》したけれども、足《あし》のあたりを震《ふる》はすと、あゝ、と云《い》つて其《そ》の手《て》も兩方《りやうはう》、空《くう》を掴《つか》むと裙《すそ》を上《あ》げて、弓形《ゆみなり》に身《み》を反《そ》らして、掻卷《かいまき》を蹴《け》て、轉《ころ》がるやうに衾《ふすま》を拔《ぬ》けた。……
私《わたし》は飛出《とびだ》した……
壇《だん》を落《お》ちるやうに下《お》りた時《とき》、黒《くろ》い狐格子《きつねがうし》を背後《うしろ》にして、婦《をんな》は斜違《はすつかひ》に其處《そこ》に立《た》つたが、呀《あ》、足許《あしもと》に、早《は》やあの毛《け》むくぢやらの三俵法師《さんだらぼふし》だ。
白《しろ》い踵《くびす》を揚《あ》げました、階段《かいだん》を辷《すべ》り下《お》りる、と、後《あと》から、ころ/\と轉《ころ》げて附着《くツつ》く。さあ、それからは、宛然《さながら》人魂《ひとだま》の憑《つき》ものがしたやうに、毛《け》が赫《かつ》と赤《あか》く成《な》つて、草《くさ》の中《なか》を彼方《あつち》へ、此方《こつち》へ、たゞ、伊達卷《だてまき》で身《み》についたばかりのしどけない媚《なまめ》かしい寢着《ねまき》の婦《をんな》を追※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]《おひまは》す。婦《をんな》はあとびつしやりをする、脊筋《せすぢ》を捩《よぢ》らす。三俵法師《さんだらぼふし》は、裳《もすそ》にまつはる、踵《かゝと》を嘗《な》める、刎上《はねあが》る、身震《みぶるひ》する。
やがて、沼《ぬま》の縁《ふち》へ追迫《おひせま》られる、と足《あし》の甲《かふ》へ這上《はひあが》る三俵法師《さんだらぼふし》に、わな/\身悶《みもだえ》する白《しろ》い足《あし》が、あの、釣竿《つりざを》を持《も》つた三|人《にん》の手《て》のやうに、ちら/\と宙《ちう》に浮《う》いたが、するりと音《おと》して、帶《おび》が辷《すべ》ると、衣《き》ものが脱《ぬ》げて草《くさ》に落《お》ちた。
「沈《しづ》んだ船《ふね》――」と、思《おも》はず私《わたし》が聲《こゑ》を掛《か》けた。隙《ひま》も無《な》しに、陰氣《いんき》な水音《みづおと》が、だぶん、と響《ひゞ》いた……
しかし、綺麗《きれい》に泳《およ》いで行《ゆ》く。美《うつくし》い肉《にく》の脊筋《せすぢ》を掛《か》けて左右《さいう》へ開《ひら》く水《みづ》の姿《すがた》は、輕《かる》い羅《うすもの》を捌《さば》くやうです。其《そ》の膚《はだ》の白《しろ》い事《こと》、あの合歡花《ねむのはな》をぼかした色《いろ》なのは、豫《かね》て此《こ》の時《とき》のために用意《ようい》されたのかと思《おも》ふほどでした。
動止《うごきや》んだ赤茶《あかちや》けた三俵法師《さんだらぼふし》が、私《わたし》の目《め》の前《まへ》に、惰力《だりよく》で、毛筋《けすぢ》を、ざわ/\とざわつかせて、うツぷうツぷ喘《あへ》いで居《ゐ》る。
見《み》ると驚《おどろ》いた。ものは棕櫚《しゆろ》の毛《け》を引束《ひツつか》ねたに相違《さうゐ》はありません。が、人《ひと》が寄《よ》る途端《とたん》に、ぱちぱち豆《まめ》を燒《や》く音《おと》がして、ばら/\と飛着《とびつ》いた、棕櫚《しゆろ》の赤《あか》いのは、幾千萬《いくせんまん》とも數《かず》の知《し》れない蚤《のみ》の集團《かたまり》であつたのです。
早《は》や、兩脚《りやうあし》が、むづ/\、脊筋《せすぢ》がぴち/\、頸首《えりくび》へぴちんと來《く》る、私《わたし》は七顛八倒《しつてんはつたう》して身體《からだ》を振《ふ》つて振飛《ふりと》ばした。
唯《と》、何《なん》と、其《そ》の棕櫚《しゆろ》の毛《け》の蚤《のみ》の巣《す》の處《ところ》に、一人《ひとり》、頭《づ》の小《ちひ》さい、眦《めじり》と頬《ほゝ》の垂下《たれさが》つた、青膨《あをぶく》れの、土袋《どぶつ》で、肥張《でつぷり》な五十《ごじふ》恰好《かつかう》の、頤鬚《あごひげ》を生《はや》した、漢《をとこ》が立《た》つて居《ゐ》るぢやありませんか。何《なに》ものとも知《し》れない。越中褌《ゑつちうふんどし》と云《い》ふ……あいつ一《ひと》つで、眞裸《まつぱだか》で汚《きたな》い尻《けつ》です。
婦《をんな》は沼《ぬま》の洲《す》へ泳《およ》ぎ着《つ》いて、卯《う》の花《はな》の茂《しげり》にかくれました。
が、其《そ》の姿《すがた》が、水《みづ》に流《なが》れて、柳《やなぎ》を翠《みどり》の姿見《すがたみ》にして、ぽつと映《うつ》つたやうに、人《ひと》の影《かげ》らしいものが、水《みづ》の向《むか》うに、岸《き
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